公営企業会計の主な論点

公営企業会計独自の論点のうち、主な論点をいくつかご紹介します。

3条予算4条予算
 公営企業には法人格がなく、地方公共団体が経営する事業であり、一般会計と同様に予算制度が重視されますが、独立採算制を原則とする公営企業の予算は一般会計のそれと多くの点で異なります。例えば、公営企業の予算は収益的収支(いわゆる3条予算)と資本的収支(いわゆる4条予算)に区分されます。資金の収支のみを予算とする一般会計と異なり、3条予算は発生主義、4条予算は現金主義で編成されます。                               予算の執行結果が決算の数値となりますが、3条予算の執行の結果は損益計算書に、4条予算の執行の結果は貸借対照表に計上されることとなります(消費税等は考慮する必要があります)。ただし、公営企業の貸借対照表は発生主義で作成されるため、選択する会計処理によっては資金収支のみで構成される4条予算の執行結果が、そのまま貸借対照表に計上されるわけではないことに留意する必要があります。                                  公営企業では収益的収支と資本的収支の区分は非常に重要です。区分が適切でなければ損益計算書は適切に公営企業の業績を表していないことになり、適切な料金設定が出来なくなります。
補てん財源
 4条予算の資本的収入には企業債など企業外部からの収入のみが計上されるため、4条予算は収入よりも支出が多くなるのが一般的です。収入より支出が多い4条予算を成立させるためには、その差額を賄うだけの企業内に留保された資金が必要となります。これを補てん財源と言います。例えば3条予算に計上される減価償却費などの非資金的項目は、損益計算書では費用として計上されますが、資金は支出されないので内部に留保されます(これを一般的に損益勘定留保資金と言います)。また予算には計上されないため予算における補てん財源にはなりませんが、損益計算書で計上される利益も利益処分などにより補てん財源となります。                     補てん財源は内容によって、消費税等資本的収支調整額、損益勘定留保資金、積立金などに区分されます。当年度発生分を全額使用できなかった場合は翌年度以降に繰り越します。使用する順番は特に決まりはありませんが、当年度より過年度のものから、より資金の裏付けが確実なものからとされています。そのためには補てん財源の管理表を作成することをお勧めします。
固定資産
 固定資産については、その財源についての会計処理が論点となります。            固定資産は購入時に費用にならず、減価償却によって費用化され、提供するサービスのコストを構成します。しかし料金によって賄うべきコストを適切に算定するためには、固定資産の購入財源となった補助金や一般会計からの繰入金等をコストから控除する必要があります。そこで固定資産計上と同時に、補助金等については長期前受金として負債に計上し、固定資産の減価償却費に合わせて収益化します。減価償却が行われない固定資産の財源となった補助金等についてはこのような会計処理は不要であり、長期前受金ではなく資本剰余金として処理されます。          購入や除売却、減損の会計処理を行うに際しては、この長期前受金も考慮する必要があり、公営企業会計において固定資産に係わる会計処理で多くの間違いが発生する要因となっています。   また、固定資産の財源のうち企業債は、長期前受金ではなく企業債という負債に計上され、償還とともに減少します。しかし、企業債はすべて料金によって償還されるわけではなく、一部は一般会計からの繰入金によって償還されます。企業債の償還に充当された一般会計からの繰入金も実質的には上記の補助金等と同じ性格のものであるため、同様に長期前受金として負債に計上します。この長期前受金も減価償却費に伴って収益化する必要がありますが、固定資産管理システムへの登録は実務上困難であり、多くの公営企業がシステムでの管理以外の方法で長期前受金と収益化の管理を行っています。管理が不十分ため固定資産との紐付けが困難となり、正しい収益化ができないケースも見受けられます。 
一般会計からの繰入金
 公営企業は住民から徴収する料金で経営されますが、その支出には必ずしも住民の料金で賄うことができない項目が含まれます。例えば下水道事業における雨水処理費用は、住民に提供される下水道サービスとは関係なく発生する費用であり、一般会計が負担すべき費用です。その費用に充当するため一般会計から受け取る収入を、一般会計からの繰入金といいます。料金のみでは事業が経営できない公営企業も多く存在しており、そのような企業も一般会計からの繰入金を受け取っています(一般的には基準外繰入金と言われます。)。                      一般会計からの繰入金は、その内容に応じて収益的収入か資本的収入に分けて会計処理を行う必要があります。収益的収入とする場合には営業収益とするか営業外収益とするか(場合によっては特別利益とするか)、資本的収入とする場合には長期前受金とするか出資金とするか検討しておく必要があります。公営企業の場合、その判断は予算編成時から必要となることが民間企業と異なるところです。特に基準外繰入金と言われる繰入金の会計処理には注意が必要です。
引当金
 引当金の計上要件を満たす場合、公営企業においても引当金を計上する必要があります。多くの公営企業で貸倒引当金、賞与引当金、退職給付引当金、修繕引当金などの引当金が計上されています。                                           それぞれ引当額の算定について多くの論点がありますが、民間企業会計との大きな違いは4条支弁職員に対する賞与引当金などの繰入額は費用ではなく固定資産に計上されるところです。    3条支弁職員に対する賞与引当金などの繰入額は費用となりますが、4条支弁職員に対するそれは、他の4条に関連する人件費などの支出とともに、建設改良費に関連する間接費として固定資産に計上されます。そして固定資産の減価償却に伴って費用計上されます。また4条支弁職員に対する期末手当・勤勉手当等は年間支給額を間接費とするのではなく、賞与引当金との調整が必要となります。